再び、多嘉原会長の声が聞こえてくる。
「昔からわからねえんですが……」
「はい」と阿岐本の声。
「老兵は死なず、ただ消えゆくのみって言葉があるでしょう」
「マッカーサーが言ったという」
「あれは別にマッカーサーの言葉じゃなくて、古くからイギリスやアメリカの軍隊にある言葉らしいですな」
「そうなんですね」
「こいつの意味が、俺にはわからねえんです」
 しばしの間がある。
 やがて、阿岐本が言った。
「老兵になっちまいましたが、私にもわかりませんね」
「わからないでしょう」
「そいつは、ゆっくり考えましょう」
「そうだな……。ねえ、阿岐本さん」
「何でしょう」
「駒吉神社の祭り、楽しみですね。私はね、根っから祭りや縁日が好きでしてね」
「はい。楽しみです」