金町の自宅で多嘉原会長を降ろすと、稔が運転する車は事務所に向かった。
日村は阿岐本に言った。
「一つうかがってよろしいですか?」
「何だい?」
「高森のこと、会う前からお気づきだったんじゃないですか?」
「あいつが先代に小僧って呼ばれていたことかい? いや、あの頃の小僧と高森は俺の中では一致していなかった。まさか、高森が小僧だったとは思ってもいなかったよ。多嘉原会長に言われて初めて気づいた」
「でも、花丈組先代と、兄弟分の盃を交わしておられたのですよね?」
「田家村が組長になる前のことだ。けろっと忘れてたよ」
「じゃあ、本当に喧嘩するおつもりだったんですか?」
「多嘉原会長が何とかしてくれるんじゃないかって思ってた」
「マジですか……」
「だがなあ。いざとなりゃあ、この命投げ出すつもりだったよ」
日村は言葉を呑んだ。
阿岐本の言葉が続いた。
「老兵だって、それくらいの使い道はある。でないと、ほんとうに消え去っちまわあ」
事務所に着いた。午後十時を回っている。阿岐本はすぐに上の階の自宅に向かった。健一たちが心配そうな顔で日村を見た。経緯を知りたがっているのだ。
日村は言った。
「神社の件は片づいた。高森は多嘉原会長やオヤジの昔からの知り合いだった」
若い衆が安堵するのがわかった。
「さすがに疲れたんで、俺は帰るぞ」
日村は事務所を出ようとした。
若い衆が声をそろえて「ご苦労さんでした」と言った。