日村は驚いて尋ねた。
「どうしました?」
「あ、いろいろご迷惑をおかけしたので、詫びを入れようと思いまして……」
 奥の部屋にその旨を告げると、阿岐本は即座に言った。
「お通ししろ」
 高森を案内し、来客用のソファをすすめた。高森は、阿岐本が座るまで腰を下ろさない。
 日村はドアの近くに立っていた。阿岐本は「座れ」とは言わなかった。
 健一が絶妙なタイミングで茶を運んでくる。高森は恐縮しており、茶に手を付けない。
「これは、つまらないものですが、どうぞお納めください」
 高森はそう言って、何かの包みを差し出す。日村が受け取った。
「わざわざお越しくださった上に、お心遣い、痛み入ります」
「この度はとんだご迷惑をおかけして、何と申してよいやら……。申し訳ございません」
「花丈の。どうぞお手をお上げください。まあ、事情はわかりますんで、なかったことにしようじゃねえですか」
「すみません」
「それで、谷津さんとは話をしたんですか?」
「はい。月曜日に中目黒署を訪ねまして……。いやあ、危うく逮捕されそうになりました」
「ああ、あの人はつい目先のことにとらわれちまうようですね。明日の百より今日の五十というタイプです」
「中国マフィアについて、全面的に協力するということで、逮捕は免れましたが……」
「洗いざらいお話しなさったんですね?」
「はい。知ってる限りのやつらの悪行を話しました」
 阿岐本がうなずいた。