「おい」
 阿岐本が言った。「あいつの手土産は何だった?」
「有名店の羊羹ですね」
「おう。そいつはいいな。茶を入れ直してくれって、健一に言ってくれ」
「召し上がるんで?」
「おう。せっかくだからな」
「血糖値、だいじょうぶですか?」
「若い衆にも分けてやんな」
 健一を呼んで、茶を入れ直し、羊羹を切り分けるように言った。
 しばらくすると、健一が皿に載った羊羹と茶を持ってきた。阿岐本はうまそうに頬張る。
 日村も羊羹をかじった。甘党ではないがうまかった。
「花丈組の先代はどんな方なんですか?」
「ああ。気っ風のいい人だったねえ」
「兄弟の盃を交わしてるんですね?」
「お互い、若かったからなあ……」
「隠居されてから、人にお会いになっていないということですが……」
「そうだな」
「これを機に、お目にかかってはいかがです」
 すると珍しく阿岐本は淋しそうな顔になった。
「いや、いいんだ。老兵は消えゆくのみ、だ」
 日村は無言でうなずくしかなかった。
 

 

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