アメリカは自由と正義と民主主義の国ではなかったの?

それにしても改めて、自分がいかに現代史を知らないかを痛感させられた。私はケネディがダラスで暗殺されたこと、妻がジャクリーン・ケネディなこと、マリリン・モンローがケネディと親しかったことなどは知っていたが、容疑者とされていたオズワルドが逮捕後すぐに射殺されたことも、ジョンの弟、ロバート・ケネディが1968年に暗殺されていたことも、ケネディ暗殺シーンの白黒フィルムが、長いことFBIに押収されたまま公開されなかったことや、ケネディの解剖がきちんと行われなかったことも、知らなかった。

映画を見進めていくと、私たちは心の中で叫ばずにいられない。「アメリカは自由と正義と民主主義の国ではなかったの?」と。

実際、アメリカの歴史をふりかえれば、原住民が住んでいた土地に、アフリカから沢山の黒人を拉致してきて奴隷とし、同性愛者に対して猛烈な差別をしたり、裁判もない赤狩りが行われたり、果ては核兵器を開発し、それを日本に使用したり…と、野蛮な行為の連続である。だからこそ「正義と自由と公正なる民主主義の国」というイメージを広げる必要があったのかもしれない。事実多くのハリウッド映画は国策映画的な側面もあるといわれる。しかしハリウッドでは労働組合運動が盛んだし、『JFK』を作る自由もあったのだ。闇も深いが、公正なもう一つの道もある、ダブルスタンダードの国なのだろう。

さて、私は一度、ハリウッドの一角にある家庭にホームステイした経験があるが、毎週のように奥方は民主党の集会に行き、私に対しても、「なぜ民主党政権でなくてはいけないか」を熱心に説明した。私は理念だけなら民主党にひかれるし、一般的に「持てる者は共和党、庶民は民主党」なのかなと理解したつもりでいた。けれどトランプが大統領だった時に訪ねたニューヨークで、タクシー運転手から「共和党政権の方が景気はいいし、仕事があるからましだ」と言われ、事は簡単ではないと感じた。同時にアメリカ国民が政治に熱心で、自分の支持政党を明言する事には感心した。これは日本ではまずあり得ない。

日本では自分の意見は言わない方が安全だと考えられている。匿名ならば相手を死に追やりそうなひどい批判も出てくるが、自分の名前が明らかになる場面では沈黙が常。一方欧米では、「主張しなければ自分の権利は踏みにじられる」と考える人も多い。実際そうしなければ、多くの黒人や移民は、白人の子女と共に学ぶ事もできなかった。その道を開いたのはケネディだ。