終身大統領を示唆する発言も……

けれども民主党候補を選ぶ予備選の取材で私が危機感を抱いたのは、若い女性たちの態度でした。ヒラリーと激戦を繰り広げていたバーニー・サンダースの支持者には若い男性が多く、しかも女性蔑視の言動がかなり見られたのです。彼らと一緒にいる若い女性たちがたしなめもせず、平然としていたのが私にはショックでした。

当時は、熱狂的なサンダース支持の若い男性や政治活動家でもある女優のスーザン・サランドンの影響を受けて「ヒラリー・クリントンが大統領になっても、ドナルド・トランプが大統領になっても同じ」「私はP****(女性器の呼称)で投票しない(自分が女性だからというだけで女性候補に投票しない)」といった発言をする若い女性も増えていました。

「ヒラリーを応援するのはカッコ悪い」という空気が若い女性の間に蔓延し、当時ヒラリーを支持していた女子大生たちは「(仲間外れになるので)ヒラリー支持を公言できない」と言っていたほどでした。

若い女性のこういった態度は、近い未来に自分の権利が奪われるという危機感がなかったからだと私は思うのです。

ヒラリーの世代の女性たちとは異なり、これらの若い女性は学校で男子と同等に扱われてきました。賃金や昇進といった点ではまだまだ男女の間に大きなギャップがあるのですが、女子大生は社会でそれを経験していません。

「ロー対ウェイド判決」がいかに重要なことだったのかを知らない彼女たちにとっては、女性の権利が剥奪されるのはマーガレット・アトウッドの『侍女の物語』といったディストピア小説の世界でしかありえないことだったのです。