社会の変化に対応できるように

老後資金については、金融庁金融審議会による報告書の「老後に2000万円の資産取り崩しが必要」という報告書が大きな話題になりました。「貯蓄をしておかないと年金だけでは不足しますよ」という話は、私たちファイナンシャルプランナーが繰り返しお話ししてきたことで、使われたデータも目新しいものではありません。ただ長引く不景気で貯蓄が十分にない人が多く、「2000万円も貯められない!」という不安が、騒動につながってしまったのかもしれません。

報告書では老後資金が足りない場合の解決策として、「家計を見直して支出を減らすこと」とあわせて「できるだけ長く働いて収入を増やすこと」を提言しています。これも、60歳と思っていた定年が65歳になり、70歳になり、退職が蜃気楼のように遠ざかるのを肌で感じる現役世代には、「いつまで働かされるんだ」という反感や絶望を招いてしまったのかもしれませんね。

 

7 働くための健康を維持

しかし冒頭からお話ししているように、増税や物価の上昇、また経済の先行きが不透明な時代にあって、「働いて収入を得る」ことは家計の大きな支えです。年金を受け取りながらであれば、無理なく続けられる範囲で構いません。たとえば65歳から70歳までの5年間、夫婦で合わせて年間200万~300万円の収入があれば、1000万~1500万円のプラスになります。退職までに2000万円が貯まっていなくても、老後の資金は用意できるのです。

そのためには現役の間から健康に気をつけることと、社会の変化に対応できる精神の柔軟さが必要になるでしょう。スマホのキャッシュレス決済をためらっているようでは、時代に追いつけませんよ。(笑)

 

8 元気なうちに、親子でお金のことを話し合うべし

さらに、今回の報告書にはメディアが詳しく報じなかった重要な内容が書かれていました。それは老後に向けて、「信頼できるアドバイザーに相談しながら、自分にふさわしいライフプラン・マネープランを検討すること」「認知・判断能力の低下に備えて、金融サービスなどを引き続き受けられるよう対策をしておくこと」という提言。

こうしたお金に関する高齢者のための対策を「ファイナンシャル・ジェロントロジー(金融老年学)」と呼び、高齢化が進む先進各国で高い注目を集めています。多世代が同居し、年をとったら財産はすべて跡継ぎの長男に任せる、日々の家計は家族が担うといった時代には起こりにくかった問題といえるでしょう。

また年金だけで生活がなりたつのであれば、「貯金を死ぬまでどう持たせるか」にやきもきする必要もないはず。金融老年学は、まさに2020年以降を生きる我々に不可欠な知識になっていくでしょう。

2025年には認知症の人が700万人前後と、65歳以上の約5人に1人まで増えるといわれます。そして、国民の金融資産のうち約65%を保有しているのが60歳以上の高齢世代。振り込め詐欺などの犯罪ばかりでなく、かんぽ生命で問題になった金融商品の不正販売など、高齢者の虎の子は常に危険にさらされている。

そのため高齢者の財産を守るための規制も年々厳しくなり、たとえ子どもでも認知症になった親の財産は簡単には動かせません。申請も運用も難しい「成年後見制度」を利用するしかない。あるいは元気なうちに、当人の資産管理や運営を信頼できる家族に託す「家族信託」、その業務を信託銀行に依頼する方法もあります。

そもそも日本では、親子でお金の問題を話し合うことをタブー視する風潮があります。「まだ早い」「自分がボケるとでもいうのか」と親に反発されたり、家族や親戚から「心配のしすぎだ」と責められるかもしれません。

しかし2020年代は日本の経済、特に高齢者をめぐるお金の問題が大きく動く時代です。新年に里帰りした際に、しっかりとご家族で話し合うことをおすすめします。