情報を掴めるなら、オフレコは避けたい

佐藤 西村さんはそこにいたんだよね。20年経って、話せる内容はある?

『記者と官僚――特ダネの極意、情報操作の流儀』(著:佐藤 優、西村 陽一/中央公論新社)

西村 いまから思えばそこまでの重大な機密内容ではなかった。大量破壊兵器政策の最新の情報を話しますよ、という趣旨だった。数年後、いやもしかすると数か月後にはオープンにしても問題のない話題だったと思うよ。

佐藤 それでもその高官がオフレコにした意図というのはなんだろうね?

西村 その時点ではリアルタイム情報だったからじゃないかな。逆にいうと、出て行ってしまった彼女はリアルタイムで、そこで話されると予想される内容を書きたかったんだと思う。それとすでにある程度、自分もしくは同僚が取材で情報を掴んでいたか、掴む自信があったのかもしれない。

オフレコ前提で話されたら、取材で得た内容も書けなくなってしまうからね。私は彼女の怒った背中をいまでも覚えている。東京ならともかく、ここはワシントンだ、せっかくのチャンスだから、自分だったらあそこまでの行動はできないな、と思いながら部屋に残りました。

記者としては、できればオフレコは避けたいのは当然。気持ちはよくわかる。でも情報源を明示するオンレコで引き出せなかったら、バックグラウンドでもオフレコでもいいから情報がほしいと思います。

実際にワシントン駐在時代、ホワイトハウス、国務省、国防総省の取材でいちばん多かったのはバックグラウンド。まさにバックグラウンド氾濫状態だった。参加者を絞ったブリーフィングでは、私も、日本関連の話題以外、たとえば中東和平交渉や米露関係に関する国務省高官による少人数バックグラウンドブリーフィングにも出席したことがありました。

佐藤 バックグラウンドは、情報を伝える側としては、政権としてのメッセージや政策の狙いを記者に伝えたいけど、発言者の名前を明示されると相手国や議会との間で問題になる恐れがある場合によく使うよね。