官僚を引っかける手段

佐藤 でもさ、私なんかは人が悪いからこう思う。そういう記者と取材源のオフレコルールが厳しいところなら、性的な関係を持って情報源にしちゃうほうが早いって。公にできない、社会的に糾弾されるような手段を使った場合、社会的に全生命を失うのは官僚だからね。「私はいつでも本当のことを話せるわよ」と耳元で囁くだけで、ずっと情報源として使えるんじゃないかって。

西村 それと同じかどうかは別にして、実際に有名な話はいくつかあるよね。ホワイトハウスの報道官と、有名な新聞社のホワイトハウス担当記者が恋人関係だったとか。これはアメリカの政治ドラマのモデルになったぐらい有名な話。あと私も直接取材したクリントン政権時の国務省では、CNNの花形キャスターと恋仲だった報道官もいたな。

佐藤 インテリジェンス機関によっては、こういう手法をとる場合もある。そして引っかかる官僚は少なくない。実際にそういう例も見聞きしました。

西村 小説や映画でもそういうストーリーは多いよね。でもこれってやはり難しい問題だと思う。私は最初に、本来、情報源と記者とは友だちにならないし、なれない、と言ったでしょう。それは恋愛感情でも同じことが言えると思っている。

関係を隠さずに世間に公にすればいいという議論がアメリカでは実際にあったのだけれど、そう簡単な問題でもない。やはり距離は取ったほうがいい。だから取材者と情報源で、そういう関係に持ち込んでオフレコの特異点になろうとする人間が寄ってきたら、それはもう断ち切るしかないと思う。

 

※本稿は、『記者と官僚――特ダネの極意、情報操作の流儀』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


記者と官僚――特ダネの極意、情報操作の流儀(著:佐藤 優、西村 陽一/中央公論新社)

暴こうとする記者。情報操作を狙う官僚。33年の攻防を経て、互いの手の内を明かした前代未聞の「答え合わせ」。5つの罠と7つの鉄則はすべてのビジネスパーソン必読。