「圧倒的な力の差によって闘争も逃走もできないと、人は固まってしまうのです。神経生物学的な反応で、理由はありません」(白川さん)

つまり蹴られたシーンを思い出し体が動かなくなり、無意識に回避して結愛ちゃんに近づけない、雄大によっても遠ざけられる。虐待とDVがセットになって、二重に結愛ちゃんに近づくことができなかったのだ。

面接を重ねた白川さんは優里を「心的外傷後ストレス障害」と「解離性障害」(長期・集中的な威圧的説得による同一性の混乱)と診断した。

「この障害は雄大の、日に数時間にも及ぶ説教と、結愛ちゃんへの暴力の目撃により発症しています。日々の過剰なストレス下で、雄大に対して5つめのF=“迎合”という反応を起こし、支配されていったのです」

 

何度も求めた助けはスルーされてしまった

徹底的にコントロールされていた優里が、助けを外部に求めることはなかったのだろうか。両親や友人が雄大によって遠ざけられるなか、結愛ちゃんは近所の住人による通報で香川県の児童相談所に一時保護された。その場で「ママも叩かれている」と職員に伝えているが、DVとは認識されなかった。

優里自身も児相の医師に過食嘔吐や下剤を服用していることを告げ、夫と「別れる、離婚する」と相談している。

また公判での証言によると、優里がDVの相談で警察に行った際、「あざはあるのですか」と聞かれたが、「言葉のDVが多かったのであざはありません」と答えると、「あざがない人は保護できません」と断られたという。さらに、市役所の女性課に行き、DV被害に遭っていることを告げるが、ここでも保護されることはなかった。

「トラウマがあると、助けを求めるという感覚が生まれにくいのです。それでも優里さんは保護してほしいと頼んでいる。しかし何度も断られ、学習性無力感に陥って、助けを求めなくなったのです」