優里の場合、警察や児相、小児科・精神科の医師にも複数回相談しているのに、通報には至っていなかった。白川さんは「この時点で治療につながっていたら、3人の将来を救えていたかもしれません」と言う。

優里は、とにかく雄大が仕事を見つけて外に出かけ、結愛ちゃんがランドセルを背負って小学校に入学すれば、この“地獄”から抜け出せると信じていた。二人が同じ時間を共有しなければ虐待は収まると……。

しかし、ダイエットという名のとんでもない躾で結愛ちゃんは衰弱し、肺炎からの敗血症で亡くなる。

「『救えたのは母親だけ』という批判は的外れです。PTSDを抱えた母親は、周りに虐待の事実を伝えられないし、周りも気づかないことが多い。虐待している親も、DVに支配されている親も、みな苦しみ、支援を必要としています」

今、トラウマインフォームドアプローチという概念が注目されている。関係者すべてがトラウマの影響を理解してケアに関わるアプローチだ。

「親と子ども双方の心のトラウマによる影響に気づいて関わり、すべての人が“助けて”と言える社会にしなければいけないと思います」