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東京・目黒区で、両親による虐待により命を奪われた船戸結愛ちゃん。2019年9月に行われた裁判員裁判では、結愛ちゃんへの壮絶な暴力が明らかにされ世間に衝撃を与えた。夫による娘への暴力を母親はなぜ止められなかったのか。結愛ちゃんの母親の弁護側証人をつとめた精神科医・白川美也子さんに、DVの及ぼす深刻な影響について聞いた。(取材・文=樋田敦子)

DVと虐待の関係性

「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」――2018年3月、こんな言葉を書き残し、肺炎による敗血症で亡くなった船戸結愛ちゃん(当時5歳)。十分に食事を与えられず、体は骨が浮き出るほどにやせ細り、遺体には170ヵ所もの傷やあざが残っていた。

東京地裁は、保護責任者遺棄致死などの罪に問われた父親の雄大受刑者(34歳)に懲役13年=控訴せず確定=、母親の優里被告(27歳)に同8年=控訴中=の判決を言い渡した。9月に下された優里の裁判員裁判の判決では、雄大による心理的DV(ドメスティックバイオレンス)の影響は認められたものの、「強固に支配されていたとまでは言えない」「暴行を知りながら容認した」と結論付けられている。

優里は「わが子を助けなかった鬼母」として世間の批判にさらされたが、一方で娘に暴力を振るう雄大に対し、「やめて」と言って離婚を切り出したり、雄大の目を盗んで娘に好物であるチーズやガトーショコラを食べさせるなどしていたことが明らかになっている。公判で「結愛を異常なほど愛していました」と声を震わせた優里は、なぜ雄大による結愛ちゃんへの暴行・虐待を止めなかったのか。

20年以上にわたり児童虐待、DV被害者の治療にあたってきた精神科医・臨床心理士の白川美也子さんは、DVと児童虐待の併存ケースを医療現場で目の当たりにしてきた。

DVには、殴る・蹴るなどの身体的暴力だけでなく、相手の意に反してコントロールするという“精神的暴力”もある。たとえば母親がそのような暴力によって「支配」され、圧倒的な力の差がそこにあるとき、子どもの虐待を抑止することは難しい。

そのようなDVと虐待の関係性については、まだまだ周知が進んでいるとは言えず、白川さんは各地で啓蒙活動を続けてきた。

優里の公判で弁護側の証人に立った白川さんは、「DVとは、支配とコントロールがその本質にある」と言う。威嚇する、強制・脅迫する、孤立させる……などの「支配とコントロール」の度合いが強ければ強いほど、被害者は精神的に追い詰められ、DVの3つのサイクルにより、支配から逃れられない状態に追い込まれていくという。