いちいちメールで夕食の献立を伝えてくるのにも辟易した。彼女の自慢は高い食材を使ったサラダや、揚げ物だ。これも料理下手な私は、「すごいねえ」「おいしそう」と返信するはめになる。
確かに料理上手な部分は尊敬に値するし、羨ましいとも思う。だがリフォームやショッピングに関しては、正直なところ「この人って買い物依存症じゃないかしら?」という感想しかない。お金を使って自分の欲望を満たそうとする人に、私は憧れを感じない。というより少々上から目線になるが、気の毒に思っているくらいなのである。
だが、ある時気がついた。彼女が私を家に招くのは、私が彼女の望む反応をしているからではないか。メールが続いてしまうのも、私のこの反応に問題があるのではないか、と。
そこで、夕飯のメニューのお知らせメールが届いても、極めて簡略的な返信をすることにした。「あ、そうなんだ。ごめん、今忙しいからまたメールするね」などと。そんなことが数回続いただろうか。パタリと彼女からのメールが途絶えた。やはり私は彼女にとって、「アッシー君」「メッシー君」ならぬ、「合いの手さん」だったということだろう。
その数ヵ月後、たまたま遭遇した同じマンションの別の住人が、初めて彼女にランチに誘われたと喜んでいた。ハハ〜ン、次のターゲットを見つけたのだなと私はピンときたが、それは口には出さずにおいた。マンションの住人同士、悪口はご法度なのである。