個性的な入居者がいる
2024年1月。札幌は最高気温が零下になる日も多くなり、寒さが厳しい時期になってきた。しかし、雪が降っても寒さにも負けず、いつもホームのロビーの椅子に入り口の方を見て座っている女性がいる。きれいな白髪を後ろで束ね、明るい色合いの薄手のセーターを着て、すらりとした体にスラックスを履いて姿勢よく座っている。
建物の中は暖房が効いているのだが、入り口のドアが開くたびに冷たい空気が流れ込んでくる。私は心配になって声をかけた。
「コートを着ないと寒いんじゃないですか?」
その女性は微かに微笑んで答えた。
「いいえ」
入居者のことをいつも細やかに見てくれているホームのスタッフが、気付いていないはずはない。きっとその人は薄着でその場所にいるのが好きなのだろう。私は余計なことを言ってしまったのかもしれない。
父もその女性が気になるらしくて、不思議そうに言う。
「あの人、いつもあそこにいるな。誰かを待っているのかな」
「パパ、私もそう思うよ。でも、毎日待っていても誰も来なかったら寂しいだろうね」
「それは考え過ぎだ。人のことを詮索するものじゃない。おまえは余計なことを想像し過ぎるところがある」
軽薄な娘を諭す父親という構図になったのは、久しぶりだ。しっかりして威厳のあった父の姿が甦ってきた。