思い残すことがなくなり世を去った
<第45回。敦康親王はこの世を去る。享年21。彰子31歳。道長によって奪われ尽くされた生涯だったのか>
自身は21歳で死ぬとは思っていなかっただろう。しかし、僕は見方を変えると、いいタイミングで逝ったのではないかと想像します。
皇太后になった彰子と、結果的に最後となる対面シーンがあります。敦康親王は「かつてははかなげで消え入りそうでしたが、今は太い芯をお持ちになっているような」と語りかけます。彼はほっとするのです。表情や感情を周囲に表さなかった人なのに、今となっては国母となり、風格を身に着け、きりっとしている。彼が表立って何かをやったわけではないけれど、慕う人に対して安心できるというのは、とてもよかったと思います。敦康親王が東宮になれないことがわかった時、彰子が反抗する時など、どんどん表立って気持ちを出されていくシーンを見ていると、彼は彼女にしっかりしていただきたいと願っていたのでしょう。
私事ですが、今年2月に母方の祖母を亡くしました。亡くなる1週間前は元気で、僕が主演の時代劇映画『約束』の完成披露を観に来てくれました。終わって家族で食事をした時、「とにかく安心した」と言ってくれました。その4日後に突然亡くなりました。「最後に千之助の晴れ姿を見て安心したのでしょう」と母に言われました。「ほっとして思い残すことがなくなり世を去る」というのが気持ち的に通じると感じました。