「怒りを失った人物」を演じること
──事なかれ主義の真面目な税務署員…熊沢二郎という役への想いを聞かせてください。
内野:映画のタイトルにも含まれている「アングリー(怒り)」というキーワードは、上田さんが企画当初からとても大事にしていたテーマの一つだったのですが、私にとっても特別な意味がありました。実は私自身、比較的怒りっぽい性格なんです。ええ。これはあくまでも比較論ですよ。(笑)
なぜなら、人間の喜怒哀楽のなかで、「怒り」という感情を、俳優として演技に昇華させてきたという思いがあります。正直に申し上げると、怒りのない人にはあまり共感できません。むしろ怒りを持っている人のほうが好きです。怒りというものは、男として絶対に持っていたいと思う。だから熊沢のような「怒りを失った人」を自分が演じていいものだろうかと当初は考えてしまいました。
たとえば、運慶・快慶の金剛力士像みたいな勇ましい「怒りの表現」がとても好きなんですよね。なので「怒りを失った人物」を演じることは、自分にとってチャレンジでした。熊沢という人物は、若い頃には先生の胸ぐらを掴むような血気盛んな男だったんです。それが社会人になって怒りを失ってしまう…。その過程で何があったのか?そして失った怒りを取り戻し、人間性を回復していく。その軌跡を描くことに面白みを感じました。