作者のサービス精神が詰まった楽しい言語学の書
言語学専門の研究者であり作家の川添愛氏による最新刊。前作のヒットも記憶に新しいなかでの第二弾であるが、本書から読みはじめてもまったく問題ない。むしろネタの鮮度という意味でも、ここから入るのもアリ。このあと一冊目を読める幸せがある。
我々は日々、言語、とくに日本語を使いコミュニケーションをとったり自分の思考をまとめたりしている。しかし言語をあまりにも自然に使いこなしているだけに、身近でありながらその原理や法則を知らない。日本語学者はそんな日本語を常に考え続け、先人による過去の研究の成果を踏まえてその生態をつかもうとしている(実は私も日本語学者です)。
ただ、そうしているうちに世間の人々の関心とはかけ離れた研究に没頭してしまいがちな分野でもある。しかし、この川添さんは、現代に生きる日本人の興味のありそうな例から、言語学の知見を活かした話題を展開する視点を持っている。
発見的共感で笑いを誘う「あるあるネタ」で有名なレイザーラモンRGの「千駄ヶ谷あるある」で披露された「ビルの一階居酒屋がち♪」を例に、「ありがち」とか「~しがち」などの「がち」の用法に、「多いがち」などの「形容詞+がち」の用法や「居酒屋がち」などの「名詞+がち」の用法が加わりつつある現状を指摘する。
それどころか本書では自らも「あるあるネタ」の作例を披露するという、作家としての一面ものぞかせる。また、格闘技好きなことから、新日本プロレスの永田裕志選手の「いいんだね、やっちゃって」という名言から倒置法(後置法)の分類の話などにも展開する。
もちろん、格闘技やお笑いのことなど知らなくても楽しめる。作者自らのコントや創作もありサービス精神が溢れまくっていて、他にない読み物となっている衝撃の内容だ。