来てしばらく仔猫は泣きつづけていたが、やがて泣きやんだ。隠れて姿が見えないときに母猫の声でおびき寄せるのは一回で済んだ。猫じゃらしを揺すればたちまち飛び出してくるのがわかったからだ。

仔猫は、内臓も骨格も持ってないみたいに軽くて柔らかく、すべすべで温かい。この頃握力に問題のあるあたしでも、片手で持ち上げられる。ちょっと持っただけで、あたしは、おいしい甘いものを食べたときみたいに、ああ気持ちいいと感じるのだ。

来て一週間経った頃、少し離れて座っていたテイラーが、仔猫に向けてしっぽをゆらゆら揺すっているのを見た。

コレは見たことがあると思ったのは、若い頃飼っていた猫が仔猫を産んで、こんなふうに遊ばせていたからだ。それから同じ猫が、あたしの産んだ赤ん坊を同じように遊ばせるのも見た。アレに似てると思ってたら、次の日にはほんとに遊んでいた。「あそんで」と仔猫が挑みかかると、「しょうがねーな、遊ぶか」とテイラーが立ち上がって取っ組み合いを始めたのだった。

仔猫が来て数日後には、養子縁組の話があった。その話が決まらぬうちに、もうひとつ話が来た。あたしがあーとかうーとか言って返事しないうちに、立ち消えになった。

その間にも仔猫は育ち、十日後にはうちの群れの末弟的存在になり、そのときにはもう「仔猫」なんて呼べない、エリックというのある名前でしか呼べなくなっていたのである。

メイの寝ている箱の中で、ふくよかなメイのおなかをまさぐっていたり、テイラーの後を、相似形みたいに、ぴったりくっついて動いていたりする。カノコとサラ子の姉妹にとつぜん三女のトメが生まれたときもこんなふうだったとちょっと思ったが、他人のそら似かもしれない。