源氏の物語論
源氏はさらに、「『日本書紀』のような国史にも、昔からのことが書かれていますが、一面的にすぎません。物語にこそ道理にかなった出来事の成り立ちが書かれているのです」と、物語は歴史書を超えるものだと言います。
この言葉は、とても大胆なものといえます。本当ではないことを語ることによって、逆に人生の真実を語ることができると言っているからです。
ついで「経文が説いている、悟りと迷いとのへだたりも、物語に登場する善人と悪人とのへだたりのようなものです」と、物語と仏典とを、同等に扱ってしまいます。
当時の一般的な物語に登場する人物は、善人は善人、悪人は悪人として、型どおりに語られていたからこそ言えた、たとえ話だといえます。