源氏の言葉に隠されたヒント

けれども振り返ってみれば、『源氏物語』には、完全な善人も、完全な悪人も登場していません。

多くの人たちが、迷いと悟りの間を行きつ戻りつしながら、思案しているようです。

源氏の言う、「菩提と煩悩とのへだたり」と、当時の一般的な物語に登場する人物たちが似ているという言いまわしは、じつは現実の人間の複雑さを見直すための、ひとつのヒントだったのかもしれません。

賢い玉鬘のことですから、こうした源氏の真意に、きっと気がついたことでしょう。

※本稿は、『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(著:松井健児/中央公論新社)

源氏物語の原文から、68人の人びとが語る100の言葉を厳選し解説。

多彩な登場人物や繊細な感情表現に触れ、物語の魅力に迫ります。