顔にマッキーで落書きして宇都宮線で東京へ
マネージャーさんと一緒に「これはチャンスだ」と気合いを入れて挑んだ番組があった。
でもいざ収録が始まると司会の方と芸人さんたちのテンポのいいやりとりに飲まれてしまって、全然しゃべれなくなった。このままじゃダメだ……と思った私は、トークの流れを読まずに発言。ベテラン芸人さんの機転に助けられたものの、スタジオがヘンな空気になってしまった。
収録後、マネージャーさんからとても書き残せない言葉と勢いで、ガンガンに詰められた。
スカウトキャラバンの時から近くで支えてくれている人が、本気で叱ってくれている。なんとかしたい。なんとかしなくちゃ。
幸か不幸か、翌日もバラエティ番組に出演するスケジュールだった。
朝、学校に行って早退。栃木から東京に向かう午前中の宇都宮線で、マッキーで眉毛をつなぎ、閉じたまぶたに目を書き込む。
何か面白いことをして、まずはマネージャーさんに誠意を見せたいともがいていた。
罰ゲーム直後のような不審な状態で、うつむき加減で電車に揺られていると、乗り合わせた人たちは「なんなんだこの人」という顔でチラチラとこちらを見てくる。
私は寝たふりをして、無の気持ちでいた。
でも、まぶたを閉じるとマッキーで書いた目が露見して、余計に怪しかっただろうな。
テレビ局でマネージャーさんと合流し、「昨日はすいません!」と頭を下げたら「咲楽ちゃん何それ?」「もしかして、そのまま電車に乗ってきたの!?」と笑ってくれた。
反省しているから顔にマッキーで落書きするなんて意味不明だが、私は精一杯だった。
※本稿は、『じんせい手帖』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
『じんせい手帖』(著:井上咲楽/徳間書店)
歌が歌えるわけでもない、演技ができるわけでもない、モデル出身でもない。そんな何者でもない井上咲楽がテレビに出続けられる理由――。
「笑顔で明るくいつも元気」というパブリックイメージを持つ彼女が、テレビに出演しながらも抱えてきた「不安」や「悩み」、「ブレイクまでの苦悩」「自己肯定感の低さ」「生きづらさ」などについて赤裸々に綴ったエッセイ。
21のキーワードで彼女を紐解くコラムや、「親友」&「大先輩・藤井隆」のインタビュー、栃木にある実家、高校時代のバイト先で撮影した8ページのグラビアも。