6月になると、ツクシイバラが満開に。絶滅が危惧されるこの野生のバラを、ベニシアさんは慈しんでいた 

「それから約2年半、1日3回の食事を作り、訪問介護員さんに助けてもらいながら介護しました。認知症だから仕方ないんですが、トイレの失敗も重なり限界に……。ベニシアの『家が一番いい。私を追い出さないで!』という必死の訴えに耳をふさぎ、ケアマネジャーさんたちの『この状態なら、施設に入るのが普通』という言葉に逃げ道を見出したのです」

しかし、ベニシアさんがグループホームに入居しても、梶山さんの心は楽にはならなかった。「罪悪感に苛まれました。さらに新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言が出て面会禁止が続いた後、久しぶりに会うと、ほとんど歩けなくなっていて。やたらと『すみません』という言葉を口にするのも、スタッフに気を使っているのかと心配になりました」。

それ以来、梶山さんは毎日通って一緒に散歩し、月に数回は自宅に連れて帰って、友人たちを招いてランチ会を開くなど心を砕く。しかし22年7月、ベニシアさんはコロナウイルスに感染。「肺炎になった」と連絡を受け、梶山さんが病院に駆けつけたときには、別人のように衰弱していた。

「これからどうしようと悩む僕に、先生が『自宅で看ることをお勧めします』と。『でも、仕事が……』と言うと、『辞めればいいじゃないですか』とばっさり。さらに続けて『あと2~3ヵ月の命です』。まさかと思いましたが、この一言で心が決まりました。家に連れて帰ろう。先生の言葉が僕とベニシアの最期の日々を変えてくれたんです」