大原の家に戻ったベニシアさんは、訪問医療・介護スタッフのサポートを受けながら、親しい数人の友人たちに囲まれて過ごした。イギリスから長男の主慈(しゅうじ)さんも駆けつけた。
「寂しがり屋だから、うれしかったと思います。僕はただただ毎日、看護の手伝いやオムツ交換などの介護に必死で。避けて通れない問題が今、目の前で起きているんだ、人生の修行だと自分に言い聞かせていました。
ベニシアはというと、まったく動けないのに『私、いつまでも寝てたらあかん。仕事せなあかん』なんて言うんですよ。頭のなかで、夏のハーブを植えていたんでしょう。この家の庭や暮らしを大事に思う気持ちがあふれていました」。
手厚いケアが功を奏し、ベニシアさんは医師の予想を大きく超える9ヵ月を家族や友人と過ごし、23年6月21日の早朝、眠るように旅立った。「よくやった。よく頑張った。おめでとう」。梶山さんは、ねぎらうようにそっと声をかけたという。