長く産業遺産に取り組んできたキーパーソン
この厄介な登録を推し進めたのが、現センター長の加藤康子(かとうこうこ)氏。加藤六月(むつき)元農水相の長女で、1999(平成11)年に『産業遺産』という本を刊行するなど、長く産業遺産に取り組んできたキーパーソンだ。センターの運営も、彼女が専務理事を務める産業遺産国民会議が受託している。
本人の弁では、安倍元首相の後押しも大きかったらしい。自民党が野党の時代に「君がやろうとしていることは『坂の上の雲』だな。これは、俺がやらせてあげる」と励まされ、安倍が総裁に復帰した直後に「産業遺産やるから」と電話をもらったという。
そのためか、ガイドの説明にも熱がこもっていた。最初のコーナーでは、19世紀半ばから20世紀初頭にかけて、製鉄・製鋼、造船、石炭といった分野で急速に産業化を成し遂げた日本人の偉業と勤勉さについて、数多くのパネルを使って詳しく解説してくれた。なるほど、これはいかにも安倍元首相が好みそうな内容だと納得した。
ただ、ここまではよかったものの、最後のコーナー(ゾーン3)に差し掛かると、違和感を禁じえなかった。テーマは長崎市にある端島(はしま)、通称軍艦島だったのだが、別のガイドが交代であらわれて、突如、韓国批判を展開しはじめたのだ。
「この写真は捏造」「この本の記述は信用ならない」。展示の雰囲気も一変して、元島民らの大きな顔パネルや映像などが並び、なんとも圧迫感のある雰囲気が漂っていた。
これはいったいどうしたことなのか。