軍艦島デジタルミュージアム

長崎港に戻ってきて、グラバー園近くにある軍艦島デジタルミュージアムにも立ち寄った。

このミュージアムは、2015(平成27)年に開館し、端島クルーズを運航する会社のひとつが運営している。

館内には大きなスクリーンやさまざまな再現セットがあり、エアロバイクを漕ぎながら島に「仮想上陸」するVR体験や、ゆるキャラ「ガンショーくん」の部屋もあり、ビルの2階から4階まで遊園地のような雰囲気で楽しめる。日本の世界遺産ミュージアムとしては、かなりエンタメ寄りに振った内容で興味深かった。

そのなかでオヤと思ったのは、3階の一角だった。そこでは加藤康子氏の功績を讃えるビデオが流され、すぐ隣には韓国の「事実歪曲」や「反日宣伝」を批判し「誰が歴史を捏造しているのか?」と訴えるパンフレットが平積みにされていた。

発行元は、真実の歴史を追求する端島島民の会。ここだけは少し雰囲気が異なり、まるで産業遺産情報センターの出張所のようだった。

それはともかく、長崎市の公共施設では端島の歴史をどのように扱っているのだろうか。同市発行の『新長崎市史』第3巻(近代編、2014年)には、戦時中に端島炭鉱で朝鮮人や中国人が過酷な労働を強いられていたとの記述がわずかながらある。

ただ、野母町にある軍艦島資料館や高島町にある高島石炭資料館はいずれも規模が小さく、詳細な記述はほとんどない。それ以前にこれらの施設は市の中心部から遠く、アクセスが悪いので、訪問者の姿はまばらだった。

※本稿は、『ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』(著:辻田真佐憲/中央公論新社)

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