リズ 私たちの関係も逆転したよね。左ハンドルのアメ車をバリバリ運転していた頃は、常にママが船長だったけど。

冨士 そう、黄色のカマロとかね。私が「伊勢丹に行くわよ!」って号令をかけると、「はいはい」ってあなたがついてきていたのに、今やすべての主導権を握っているのはあなた。私は何をしても叱られる……。

リズ 叱ってないって。ママは突発性難聴を患って以来、左の耳が聞こえにくいから、大事なことはあえて大声で話しているだけなのよ。

冨士 いいえ、ゴミの出し方ひとつとっても、「そうじゃない」って怒鳴るでしょう。誰があなたのオシメを替えたと思っているのよって言いたいわ。

リズ オシメを替えたのなんて、たかだか2~3年の話でしょう。こっちは何十年も、ママのペットボトルの捨て方にイライラしているんだから。

冨士 あら、そんなつまらないことで。

リズ 私にはこだわりがあるの。まずラベルをはがすでしょう。次に専用のハサミでキャップまわりのリングを切って外す。水でゆすいで乾燥させたら、踏み潰して平らにしてゴミに出す。

冨士 なるほどねぇ、とは思うけど、そんなことをいちいち人に強要していたら、小うるさい女だと思われるわよ。

リズ たしかに若干、神経質なところがあるのは認めます。

冨士 私にもこだわりはあるわ。私は知り合いに葉書を送るのが好き。でも、あなたはそれを「時代遅れ」って言うじゃない。相手のことを思って書くのが楽しいから、やっているだけなのに。

リズ 手紙を書くことは否定していないよ。ママは腰が痛いから、葉書をポストに投函しに行くのも一苦労でしょう。うっかり転んで、また骨折でもしたら大変。しかも救急車は絶対に呼ぶなと言うし。「これからポストに行ってきま~す」と電話がかかってくるたびに心配で、つい言葉がキツくなっちゃうの。決して責めているわけじゃない。

冨士 もう少し優しい言い方があると思うのだけど。結局、母と娘の関係って永遠の片恋なのよ。母から娘への。だから私は、何を言われても逆らわずに黙って聞き流してる。子どもを産んで本当によかったとは思っているけれど、母親ってひたすら我慢して生きる宿命なのよね。