みなさんからいただく言葉に励まされて
編集部には時々、連載や単行本の読者の方々から感想やお手紙が送られてきており、ありがたいことだと感謝しています。お手紙をくださった80代のある方は、以前、NHK放送学園の通信教育の「社会福祉コース」で勉強した際、教科書に私の名前が載っていたそうです。たぶん30年ほど前、私が講師に名前を連ねていた頃のことでしょう。
お手紙によると、その方が通信教育を受けようと思ったのは、農家に嫁いだ自分が将来、高齢化が進む社会の中でどう生きていけばいいのかを考えていたからだそうです。卒業後は、地域の高齢者が子どもたちに昔の遊びや料理などを教える集いを主宰するなど、地域のために活動され、64歳から12年間、地域の福祉委員長を務められました。民生委員もされ、今は一高齢者として夫婦で農業をしながら地域とのつながりを大切にしつつ、暮らしているとのこと。『老いの上機嫌』を読み、かつて勉強した際に私の名前を知ったことを思い出し、お手紙を書こうと思われたそうです。
「通信教育を受けたおかげで、また樋口先生の教科書のおかげで、地域の福祉委員も64名から150名以上になりました」というくだりを読み、思わず涙が出てしまいました。
私は長生きをしたぶん、あちこちで講演をしたり、講師の役を務める機会をたくさんいただきました。私一人の力は本当にささやかですが、一滴の水も集まれば大きな河になるはずという信念から、仲間たちと手を携えてここまで歩いてきたのです。そうした活動を通して触れ合った方々が、それぞれの地域でがんばっておられる様子を知ると本当にうれしいですし、感謝の気持ちでいっぱいになります。
全国を見回すと、福祉関係の事業所は女性経営者がかなり大勢いらっしゃいます。そのなかには、60代になってから仕事を立ち上げ、少しずつ充実させていった方も少なくありません。まだまだ専業主婦が多かった時代、子育てを終えた後、次の人生を始めようと決意されたのでしょう。その行動力と使命感には、本当に頭が下がります。
人生100年時代、成人になってからの時間を80年とすると、60歳はまさに中間地点です。「還暦」という言葉は、人生を一巡して再びゼロから始めるという意味があるそうですが、新しいことを始めるにはいい時期かもしれません。福祉関係の仕事は大変だとは思いますが、人生の後半に新しい一歩を踏み出す方の登場を楽しみにしています。
読者のみなさんの中には、私とご同輩の方もいれば、まさに親や配偶者の介護の真っ最中という方もいるでしょう。また、まだまだ若いけれど、この先の人生をどう過ごそうか、考えている方もいるかと思います。人間、誰でも必ず歳をとります。今はまだ若くてお元気な方も、明日は我が身。
みんなで手を取り合って、よりよい高齢社会を築いていくことを、心から願ってやみません。