メイコさんの定位置だったダイニングの椅子に手を置いて(撮影:藤澤靖子)
2023年の大晦日に89歳で旅立った女優の中村メイコさん。突然の別れから1年、夫の神津善行さんが、一周忌を前に妻への思いを語ります(構成:篠藤ゆり 撮影:藤澤靖子)

話したいことが毎日いっぱいある

1年たったら気持ちの区切りをつけなければ、とは思っているのですが、なかなかそれができなくて。

ダイニングテーブルの彼女の指定席には、この1年、誰も座らせていません。その席からはベッドルームも台所も見えるので、彼女は座ったままで私の姿を目で追える。最期のほうは車椅子でしたし、いったん席に座ると、そこから離れませんでした。

亡くなった日のことは、ハッキリ覚えています。12月31日、『紅白歌合戦』を見ている途中で「もう寝る」というので、車椅子を押してベッドに連れていきました。でも僕がテレビのある場所に戻ろうとすると、「ちょっと変な感じがするから起こして」と僕を呼ぶんです。

そこで電動ベッドを起こして、しばらく身体を撫でていたら、僕の小指に自分の人差し指を引っかけてきて……。たぶん、手を握っているつもりだったんでしょう。その状態で1分くらい話したかな。

「大丈夫?」と聞いたら、「大丈夫」と答えて、次の瞬間、指が離れて僕に寄りかかってきました。そして、声をかけてもだんだん反応しなくなったのです。

すぐに娘たちに電話し、病院と警察に連絡して、医師に来ていただきました。亡くなる2年前に大腿骨を骨折し、それからは座ったままだったので、血栓ができやすかったのでしょう。死因は肺血栓症、いわゆるエコノミークラス症候群でした。

お医者さんは「ものすごく珍しい。ご主人の腕のなかで、まったく苦しまずに逝くなんて、最高の亡くなり方です」とおっしゃっていました。