衣装姿の市村正親さん
本番前の楽屋でもトレーニング!

これぞまさしく「熱演と言われる役者の芸のなさ」。これは俳優の加藤健一くんがどこからか引用していて、いい言葉だなと思って覚えているの。いい芝居は、汗みどろになって100%全開でガンガンやるものじゃない。無駄な力が抜けて、お客さんに想像する余地を与えられるくらいのほうが、感動を生むと思うんだ。

ただしそれに気づけるのは、必死で取り組む経験があってこそ。本番でいい具合に力を抜くためには、稽古で200%の力を出してなきゃダメ。そんなことに75歳の僕がまだ気づけるっていうのが、芝居の醍醐味だよね。

僕、稽古で〈ダメ出し〉されるのが大好きなの。劇団四季にいた頃は、いつも演出家の浅利(慶太)さんの目の前、唾が飛んでくるくらいのところに陣取って話を聞いてた。浅利さんも後ろのほうに座っている面々に、「後ろにいる奴、仕事欲しくないんだな」と言ってたけど、そういうことなんだよね。

ダメ出しは役者をより伸ばすためのもの。あるから育つ。役者にとって栄養と水なんです。僕なんて、自分以外の人へのダメ出しも全部もらっていましたよ。タダなんだから、丸儲けでしょ。(笑)

僕にたくさんダメをくれていた浅利さんも、四季を出てからお世話になった蜷川(幸雄)さんも亡くなって、寂しいね。いつだか蜷川さんのドキュメンタリー番組を観ていたら、藤原竜也くんがいっぱいダメを出されていて。それを見ながら、「あ、それ、僕にも言えることだ。これもそう! なるほどな……」と、画面から勝手にダメを頂戴しました。(笑)