無人駅から2両きりの電車に乗ってしばらく走ると、その住宅は見えてくる…(写真はイメージ。写真:stock.adobe.com)
時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは宮城県の70代の方からのお便り。病院に通う電車に乗る時、いつも気になる風景があったそうで――。

《長屋》が気になる理由

無人駅から2両きりの電車に乗ってしばらく走ると、その住宅は見えてくる。木造2階建ての、かなり古びた長屋で、地元では「市営住宅」と呼ばれている。

もともと白い外装だったのが、モルタルはくすんでしまっている。同じ形の扉が4つ並んでいるところを見ると、一棟4戸の長屋だとわかる。戦後、引揚者のために建てられたものだと聞いた。

病院に通うために、隣町まで電車に乗る時、長屋のほうに視線を向けるのが習慣のようになっていた。いつもひっそりとたたずんでいる長屋だが、たまに庭先に人影を見かける。

緩慢に動く老婦人らしい姿が、洗濯物を干していたりするのだ。次第に入居者は減り、1世帯だけとなった。彼らが退去したら、建物は解体されるという噂を耳にする。

長屋が気になる理由はよくわかっている。私も同じような公営住宅で、中学生の頃まで暮らしていたからだ。母と姉との3人暮らしだったが、六畳間が全員の寝室。横長のわが家が「ハーモニカ長屋」などと呼ばれるのを、姉も私も嫌がったものだ。