森英恵やキンキンも…
すでに「読めない」という不便があるのだから、手に取ればいいとはわかっている。でも逡巡してしまう……。ズバリ「実例研究 老眼鏡ショック」(82年1月号)という原稿を寄せたのは評論家の有馬真喜子さん。
〈かけたくないのである。かけた姿を人目にさらしたくないのである。メガネで「年をとりました」と宣伝したくないのである〉。
一歩踏み出せない思いを抱えた有馬さんは、さまざまな老眼鏡ユーザーたちにアドバイスをもらうことにした。
老眼鏡を26個も持っていて、洋服の色に合わせフレームを選ぶという秋山ちえ子さん。
石垣綾子さんは「老眼鏡はかけるべきですよ。年をとると目が小さくなるけれど、老眼鏡だと拡大して、若いころのように大きく、パッチリ見せてくれますよ」と断言する。
老眼鏡向きのフレームのデザインを始めた森英恵さんのメガネは、べっこう色の縁の真ん中に、金色のチョウが遊ぶ。
キンキンこと愛川欽也さんは、雑誌『スクリーン』をペラペラ捲り、ポール・ニューマンやロバート・レッドフォードのものとそっくりのメガネを作ったそう。
有馬さんの文章からも、老眼鏡の受容には、その人の性格・嗜好が出ているように思えます。最後に吉行淳之介さんが65年9月号に寄せた文章を。
〈眼鏡をつくっても常時かける気持はないので、たとえば若い女の子とレストランへ行くとする。(略)そういう女性と差し向いになり、ボーイがメニューを手渡してくれたとき、内ポケットからおもむろに老眼鏡を出してかける。オーダーを終えると、また内ポケットに収めてしまう。……そういうことをやってみるのも面白い、という趣味的な心持なのである〉
さすが「文壇一のモテ男」。老眼鏡も演出になっています。