厳しく叱っている現場を目撃し

ただ、人材がいなければ会社も存続できないから、「私たちは言いたいことを我慢して黙っている」のだそうだ。そのため、若いドライバーの態度がどんどん横柄になってしまうということらしい。

以前にも触れたが、航空会社の地上係員などのサービスも、以前に比べて低下してしまったなと思うことがしばしばあるが、きっと同じような理由によるのだろう。叱られない日本のこの先に対する漠然とした不安がつのる。

そんななか、先日訪れた銀座の料理店で、年配の女将がアルバイトの大学生を「あんな接待じゃ失格よ、ここで働きたいのならしっかりしなさい」と厳しく叱っている現場を目撃した。

「頑張りなさい、応援してるんだから」と女将から肩を叩かれたアルバイトは小さく頷いて、座敷へと戻っていった。すごく懐かしいものを目にしたような気持ちになり、少し安堵した。


歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)

パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!