中島 ただ、中国で長年やっている「愛国主義教育」では、抗日戦争の歴史が主要テーマのひとつです。戦争の歴史を語るなかで「日本憎し」と言う人はいる。
また、社会に対して不満があっても政府に文句は言えないので、日本は特に嫌いではないけれど「嫌い」とネットに書き込んでスカッとする、という人がいるのも事実です。
安藤 中国でテレビドラマを見ていると、よく日本の軍人が出てきて、驚くほど悪辣に描かれています。最初に見た時はさすがにショックでした。
中島 あれは『水戸黄門』の悪代官みたいな高齢者の娯楽の典型で、本気で受け止めている人はいません。普段は日本のドラマやアニメを好む人も多いのですが、何かあると愛国主義教育が導火線になり、そこに火が点く。処理水が放出されると、ワーッと福島に電話をかけてくる人がいたり。
安藤 熾火(おきび)が常に燻(くすぶ)っている。
中島 処理水の件で福島に電話をかけた人たちの発音を聞くと、だいたい中国の地方訛りがあるんですよ。要は生活が苦しい田舎の人たちが鬱憤を晴らしている。
中国の戸籍制度は都市戸籍と農村戸籍という二つがあり、農村の人は都市に不動産を買えないのです。中国の富裕層はほとんどが不動産で儲けた都市部の人。その格差がさらに社会の不満を増大させています。
渡辺 先日中国に行った知人から聞いた話ですが、前を歩いていた中国人が横断歩道を赤信号で渡ったら、5秒で顔認証され、電光掲示板にマイナンバーみたいなものがパッと出たと言っていました。運転で軽い違反をしても、すぐ顔認証されてスマホに罰金の通知がくる。
中島 IDに顔の情報が紐づけされています。
安藤 すごい監視社会! 都市部の話ですか?
中島 いえ、地方もです。
安藤 それはストレスも溜まりそうですね。
渡辺 その不満の矛先が向きやすいのが日本なのでしょうね。さきほどの中国の無差別殺人とか、アメリカのマノスフィア(男性中心主義者)とか、各国で抑圧された人々の不満が鬱積している。
日本でも闇バイトが横行したり、格差がより明確になってきています。世界中で「主要メディアは自分たちの苦しみを伝えていない」という怨念が沈殿するようになってきているとも思えますね。