(イラスト:堀川直子)
厚生労働省「精神保健医療福祉の現状等について」によると、令和5年の精神疾患を有する総患者数は約603万人とのこと。年齢関係などはなく誰にとっても身近なものになってきています。厳しい境遇に置かれながらも、一つの出来事をきっかけに人生が変わる可能性もあります。井上麻子さん(仮名・栃木県・アルバイト・49歳)は、待ち望んでいた誕生日の2か月前、ある事件が起きて――。

母よりも長く生きると決めたけれど

私は19歳で結婚し、20歳で長女を出産。幸せだったのも束の間、産後1ヵ月が経った頃、実母が自ら命を絶った。享年46。この時、私は「母の年齢より生きて、娘を守る」と誓い、母と同じ精神疾患になり、精神科に通院しながらも無我夢中で生きてきたのだ。

待ちに待った46歳の誕生日。数ヵ月前から、この年齢を迎える大切な記念日に何をしようかと考えていた。それなのに、誕生日の2ヵ月前に事件が起きたのだ。

仕事から帰ってきた途端、「相談がある」と言う夫。そういう時は決まってお金の話だ。
夫の姉の娘、つまり姪が泣きながら電話をかけてきて、「30万円入っていた財布をスラれた。前も財布を紛失したから、今度こそ夫に家から追い出される。だから、バレないようにお金を貸してほしい。少しずつだけど必ず返すから」と言ったそうだ。

その後、義姉からも電話がかかってきて、「母が亡くなった時に残っていた20万円をあなたに預けていたでしょ。そのお金を渡してあげて」と言われたのだとか。

20万円というのは、義母が亡くなる前に入院していた時の生活費の残りのことで、金遣いの荒い義父と義姉が使わないようにと、夫が預かっていたものだ。

義姉はシングルマザーで3人の子どもがいるが、仕事が長続きせず、義父とともに「お金を貸して」とよくわが家を頼ってきていた。これまでも貸したお金が返ってきたことなどないのに、夫は青い顔をして信じ切っている。