驚くべきその先見性

それにしてもこの映画は、音楽のセンスが卓抜している。あの劇的なオープニングにかかるのが、リヒャルト・シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』。やがてそれはヨハン・シュトラウスの優雅な『美しき青きドナウ』に変わり、ストーリーがほとんど進まない宇宙船の描写も気持ちよく見入ってしまう。(ちなみにリヒャルト・シュトラウスと、ヨハン・シュトラウスは全く関係ないそうだ)

さて、宇宙ステーションから月面の探査に降りたアメリカ合衆国宇宙評議会のフロイド博士は、月のクレーターで発見されたモノリス(サルを人間にかえる契機となったのと同じような石柱)を調査。するとモノリスが、強力な信号を木星に向かって発したため、木星探査をすることになる。

ここまでに私たちは二つの大きなテーマに出会っている。「人類の進化」と、「地球外の生命の可能性」。 驚くのはその先見性だ。この映画が公開されたのが1968年で今から57年前。奇しくもこの翌年にアポロが月に着陸したわけだが、「人類の起源は宇宙人説」は、今もYouTuberの大好物テーマ。宇宙船、機内のコンピュータや宇宙服のデザインからして、現代のSF作品や実際のハイ・テクノロジーの原型はほとんどこの映画から作られたように思う。当時、世界中のクリエイターたちがこれを見て「やられた!キューブリックすげえ」と思ったことだろう。

さて、フロイド博士の命をうけ、デヴィッド・ボーマン船長(キア・デュリア)は、フランク・プール隊員、冬眠中の三人の隊員と、人工知能HAL9000に完全制御された宇宙船ディスカバリー号で、木星探査に向かう。

この旅で私たちは、現代で最もHOTな「人工知能は人格(精神)を持つのか?」というテーマに対峙する。現在は多くの人が、AIの出現で仕事を失い、様々な情報を管理されている。AIに人間がコントロールされる恐怖は、既にこの時予言されていたのだ。