僕たちのラストステージ

監督/ジョン・S・ベアード
脚本/ジェフ・ポープ
出演/スティーヴ・クーガン、ジョン・C・ライリー、シャーリー・ヘンダーソン、
ニナ・アリアンダ、ルーファス・ジョーンズほか
上映時間/1時間38分
イギリス・カナダ・アメリカ合作
■4月19日より新宿ピカデリーほかにて全国順次公開
©eOne Features( S&O) Limited, British Broadcasting Corporation 2018

30年以上のコンビが、積年のわだかまりを吐き出して

ローレル&ハーディは、スラップスティック・コメディ(ドタバタ喜劇)の芸風で、1920年代半ばから30年代にハリウッド・コメディ界で人気を博したお笑いコンビ。サイレントからトーキーの時代にかけて数多くの映画に出演し、日本でも極楽コンビの愛称で親しまれ、世界中から愛された伝説のコメディアンである。

物語はローレル&ハーディが人気を極めていた37年から始まるが、主に描かれるのはコンビの晩年だ。53年、二人は再起をかけて、イギリス各地のホールを回るツアーに出る。だが、彼らはすでに過去の存在となっており、狭いホールでさえ空席が目立っていた。それでもめげずに、まるで駆け出しのように地道な宣伝活動を行う。その努力が功を奏して観客は増え、昔と変わらない名人芸でファンを取り戻してゆく。イギリス中を巡業し、締めくくりに、ロンドンの大劇場での2週間公演も決定した。すべては順調のように思えたが、些細なことから長年燻(くすぶ)っていた互いへの不満が爆発。激しい言い合いのすえ、ハーディは引退を口にして、コンビは解消の危機に直面する。

陽気で大きな赤ん坊のようなハーディと、ちょっと皮肉屋の細身で小柄なローレル。ネタを作り、ボケ役に徹するスタン・ローレルを、イギリスの人気コメディアンでもあり、『あなたを抱きしめる日まで』(2013年)の誠実なジャーナリスト役が記憶に残るスティーヴ・クーガンが演じる。ステージを降りた時の唇をヘの字気味に結んだ表情は寂しげで、シャイな物腰からは孤独が滲み、歳月を重ねた“笑いのプロ”然とした佇まいが印象的。

相棒オリバー・ハーディ役のジョン・C・ライリーは『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02年)、『アビエイター』(04年)などに出演する演技派だ。特殊メイクで約180キロの巨漢に変身し、ハーディのおおらかな優しさを醸し出す。

 

芸達者な英米の俳優クーガンとライリーは絶妙な掛け合いを披露し、軽やかなステップを踏む楽しいダンスや、二つの入り口の前で入れ違うコントなどを本物そっくりに再現する。彼らが作り出す幸せな瞬間や、緻密に計算されて入念に稽古を積んだ芸は見事だ。

皮肉なことに、ロンドン公演中のパーティーで、それぞれに秘めていた不満を爆発させて罵り合うと、パーティー客はそれがアドリブによる新しいネタだと思ってしまうのだ。喝采を受けるも、二人の心に残る悔いとやりきれない想いが苦い。

しかし、30年以上もコンビを組み、積年のわだかまりを吐き出したからこそ、ようやく、わかることがある。互いに、代えのきかない相方なのだと。二人の友情は揺るがず、そのステージを締めくくるダンスは楽しく、温かく、そして、哀しくもある。

 

ヒトラーVS.ピカソ 
奪われた名画のゆくえ

監督:クラウディオ・ポリ
©2018-3D Produzioni and Nexo Digital-All rights reserved

ナチス・ドイツが欧州各地で略奪した芸術品は約60万点。奪われた美術品、その返還を求める相続人、略奪品を追う人々に迫るドキュメンタリー。政治は芸術を支配できると妄信するヒトラーに対してピカソが放った言葉、「絵は盾にも矛にもなる、戦うための手段だ」が鋭い。4月19日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開

 

幸福なラザロ

監督・脚本:アリーチェ・ロルヴァケル
©2018 tempesta srl・Amka Films Productions・AdVitamProduction・KNM・Pola Pandora RSI・Radiotelevisione svizzera・Arte France Cinema・ZDF/ARTE

名作『夏をゆく人々』(2014年)のロルヴァケル監督が描く、実際の詐欺事件から着想を得た寓話的ミステリー。20世紀後半のイタリアの村で、村人は小作制度の廃止を知らされず、社会と隔絶して暮らしていたが……。無欲で純朴な主人公のラザロに、現代社会の価値観が揺るがされる。4 月19日よりBunkamura ル・シネマほかにて全国順次公開