一人の人間としての生きざまを表現
――時子、重盛、徳子という、それぞれの役への思い入れをお聞かせください。
麻実 どの役も悲劇的で、その中に強さを持っています。時子は夫への愛、家族愛、一門への愛と、すべてに対する愛情を持っていますが、終幕は幼い安徳帝を抱いての入水になるので、重いお役ですよね。ある程度のめり込まなければ、あのシーンはできないのですが、入り込み過ぎたら違う次元に行ってしまいそうですし。歴史の波間で生きた女性の強さを持って演じたいです。
湖月 宝塚在団中と、退団後に培ってきたものが私の中にあって、また男役を演じさせていただくわけですが、男役というよりも一人の人間としての生きざまを表現できればと思っています。今回、『平家物語の虚構と真実』(上横手雅敬・著)という本を見つけて、重盛の人物像を研究したんです。重盛に関する記述はそれほど多くはないのですが、論理の筋を通す人で、息子の資盛が大失態をしでかした時にも、冷静に解決に動く。今回の脚本では、父の清盛の傲慢さに楔を打つ役目として描かれているので、そこを演じたいな、と。
麻実 湖月さんも、そういうタイプなの?
湖月 正義感の強さは似ているかな、と思いますが、私はどちらかというと平和主義で、何もかも押しのけて突き進むというよりは、みんなと手を取り合って行こう、というのが好きです。
咲妃 徳子は過酷な運命を生きた女性ですが、お母さまの時子の血を引いて、芯の強い、覚悟をもって生きた人だと思います。徳子に限らず、平家のもとに生まれ、あの時代に生きた人たちは、並々ならぬ覚悟を貫いたのでしょうね。
清盛も成り上がり者と蔑まれながら、一族を繁栄させるためにがんばって、そこにさまざまな悲劇が生まれました。今の時代も同じような争いがあるからこそ、この物語も過去に埋もれず、長い年月を生き残ってきたのだと思います。そのような物語に携わる機会をいただいたからには、全力で向き合いたいと思っています。