舞台が始まると、世界が切り替わる

湖月 たーこさんから、コツコツという言葉をうかがって、驚きというか、感動というか。

咲妃 私はすがるように、このお仕事を続けていますが、もしかして、お二人のように輝けるのなら、この自分のどうしようもない自信のなさが、逆に助けになるのかな、と思いました。

麻実 でも、いざ、舞台が始まると、世界が切り替わるのよね。その大きな落差を味わうことが、私たち舞台人の醍醐味といいましょうか。

湖月 それはありますよね!

咲妃 私はもう、もとから地味~にやるのが好きで。(笑)

湖月 私は結果が付いてくることが分かってから、地味~が好きになりました。背が高いので下半身を強化していないと、舞台でダンスは踊れないんです。『2STEP(ツーステップ)』というOG出演のダンス作品に出演した時、激しい振り付けに耐えられたのは、日ごろから地味~にスクワットを続けていたからだ、と実感しました。それは自分にしか分からないことなのですが。

湖月わたるさん
 

麻実 本読み、稽古場、舞台稽古と、だんだんと本番に近づいていくでしょう。舞台稽古の段階まで行くと、今度はもう地味ではいられなくなるのよね。でも、普段は本当に地味よねえ……。

湖月 たーこさんは長いセリフが続くお役も多いですよね。

咲妃 どうやって覚えていらっしゃるのですか?

麻実 ぶつぶつ、ぶつぶつ呟きながら、何度も読んで覚えているの(笑)。今回、集合日にはじめて本を読んだ時は、涙が止まらなくてね。演出家に「今日だけは泣かせて。その代わり、これが終わったら泣かないから」って、伝えました。自分が選んだ役は、自分が責任を持って乗り越えないとね。そこを越えると、今度は幸せの光が見えてくるんですけど。(笑)

湖月 役に憑かれてしまう、なんてことはありませんか?

麻実 たとえば蜷川幸雄さん演出の舞台『オイディプス王』は、ギリシャのいちばん古い劇場で打たせていただいた。何十人というコロスが舞台でわーっと動く。その時に、何かに憑かれるというのではなくて、古代の時空に自分が行ってしまうような気にはなりましたね。