老後の生活資金を、すべて国や会社に期待するのは現実的ではない
1960年代の高度経済成長期に成立したと言われる「日本型経営」のモデルでは、長い間、終身雇用が理想とされてきました。終身雇用の下では、高校や大学を卒業すると就職し、同じ企業で定年まで働き続けます。
そして、定年退職すると、まとまった金額の退職金を受け取ることができます。そして、年金を政府と企業から受け取って、退職金と年金で老後の生活を送ることができました。
実際、「老後2000万円問題」報告書のデータからも、現在の退職世帯の平均的な生活は退職金の取り崩しと年金収入で成り立っていることがわかります。ただし、ここで注意すべきは、終身雇用がすべての人に当てはまっていたわけではないということです。
たとえば、自分のお店や工場を経営している場合には、定年などなく、働き続けることが多くありました。それでも、終身雇用は多くの企業にとって理想とされていたため、経営の体力がない中小企業も、人材獲得のために終身雇用を掲げる時代が長く続きました。
このように、終身雇用は必ずしもすべての日本人に当てはまっていたわけではないのですが、「あるべき姿」とされ、終身雇用を前提に日本の社会制度が構築されてきました。
その代表例が退職金の制度です。しかし、終身雇用が崩れていくのと同時に退職金の平均額はだんだんと減少しています。厚生労働省の統計によれば、2007年に2280万円あった大卒の正社員の退職金の平均額は、2017年の1790万円へと、10年で2割以上減っています。年率では2.5%の減少ペースです。仮にこのペースで減少していけば、2040年には、約1000万円まで減少することになります。
また、退職金がない企業も増えています。そもそも、退職金は給与の後払い的な性格があります。その分、若いときに給与を低く抑えられているため、退職金の制度をなくすことには一定の合理性があります。
このように、仮に、今後20年間、終身雇用の制度の内側で守られるとしても、老後の生活資金を退職金に期待するのは現実的ではなくなっているのです。退職金に期待できなくなっている以上、働きながら資産運用を行い、必要な老後資金を用意しておくことが大切な時代になっています。