林 夫はすぐ不機嫌になるから、家庭を穏やかにしようと思ったら、私が折れるしかない。田辺聖子先生が、家には“不機嫌の椅子”が1つあって、そこに誰かに座られてしまうとほかの人は座れない、といったことを書かれていましたけど、うちの場合はいつも、夫がその椅子に座っていますから。
鈴木 先に不機嫌になったもの勝ちですよね。
林 そうなんですよ。私もたまにはその椅子に座りたいのに、根が明るいから座れない(笑)。今朝もね、私のほうが起きるのが遅かったといって、夫が朝から不機嫌で。遅いといっても7時半くらいですよ? 私は夜、会食で帰宅が遅いことが多いのに、それすら「なんとかしろ」と言う。
鈴木 お仕事柄、社交の機会も多い「林真理子さん」と結婚されたのだから、そこは理解してもらいたいですよね。
林 定年後の夫とのつきあい方は、女性にとって本当に大問題。でも、「定年したら妻と旅行に行きたい」と考えている男性が案外いるのですって。妻にしてみたら、冗談じゃない。
鈴木 定年後にいきなり夫婦で旅行に行っても、ぎくしゃくするでしょうね。妻と楽しく過ごしたいなら、定年前から2人で旅行に行く関係性を作っておかないと。
林 うちの夫は、温泉に行ったりするのも嫌い。でも、妻だけが行くのはもっと嫌い。
鈴木 どうすればいいのでしょう。(笑)
林 子育てや夫の世話、介護とか、その時々の役割を担うことに私が耐えられたのは、夜、楽しい時間を持っていたからだと思います。素敵な男の人たちとおいしいものを食べて、「キャーッ、楽しい!」と思えれば、家に偏屈なジィさんがいても「まぁ、いいか」と。そして、夫には今、こういう楽しい時間がないんだな、とやさしくなれる。
それに、男性の平均寿命のほうが短いのだから(笑)。さんざん夫のことをイヤがっていた人も、いざ1人になってみると、けっこう懐かしく思うこともあるみたいですね。
鈴木 うちの父は60代で亡くなったので、母は15年以上1人で暮らしています。父は、母が出かけようとすると「オレの飯は?」と言うような昔ながらの人だったので、母は今すごくのびのびしてますね。そうそう、真理子さん、昨年台湾にいらしたでしょう?
林 あ、行きました。宝塚の台湾公演を観に。
鈴木 私も、宝塚が好きな母と、母の友人を連れて台湾に行ったんですよ。真理子さんとはニアミスで、1日違いだったみたい。
林 えっ、本当に? お母さまは今、おいくつですか?
鈴木 77歳です。だから、行けるうちにと思って。2年くらい前から、娘たちを置いて母と旅行するようになりました。
林 お嬢さんたちが大きくなったことで、ようやく母娘で旅行できて、お母さまも幸せでしょうね。