「やりたくない」「できない」と言っていい

 年齢とともに「楽しいこと」が変わってきたような気はしませんか。私はずっと好きな友だちとおいしいものを食べるのが人生最大の喜びでした。でも最近は温泉宿やホテルに1人で泊まって、寝っ転がって好きなだけ本を読めたらどんなにいいだろうなって。

鈴木 わかります。生活感がなくて、自分で掃除する必要がない場所って、すごく魅力的! ご褒美みたいな時間ですよね。

 事情はそれぞれあるでしょうけれど、誰でも自分が楽しいと思える時間をなにかしら持つといいと思います。映画やお芝居を観るでもよし。どうやってその時間を捻出するかは、生活の知恵です。そのためにちょっとヘソクリも貯めてね。

鈴木 家庭の外に自分の世界を持つことが大事でしょうね。私、仕事復帰して数年経った頃、ママ友のイギリス人の夫から、「ホナミは最近綺麗になったね」と言われたんですよ。「何言ってんの、前から綺麗だったよ!」と思ったんですけど(笑)。

でも考えてみたら、その夫婦と知り合ったのは、娘たちが赤ちゃんだった頃。外国の人だからそれ以前の私はご存じない。当時は、お化粧も髪の手入れもできず、自分の服も買わず、まったく自分にかまっていなかったんだ……と、改めて気づいて。

 それと、外だけでなく、家の中にも“心のコーナー”を作ることね。たとえば自分の趣味に費やす時間は、夫に「その間だけは声をかけないでね。お茶飲みたかったら、自分で淹れて」と、きっぱり言うことも大切だと思う。

鈴木 最近気づいたのは、「できない」「やりたくない」という気持ちを、認めていいのね、ということ。思い切って「今日は疲れたから食器洗いたくない」と言ってみると、案外、家族は平気だし、洗っておいてくれたりする。

 この間私が海外に行ったら、夫も自分でレトルトカレーを温めて食べてました。

鈴木 「わたしファースト」の時間は、男女を問わず絶対に必要。女性がもっとそういう時間を持てるように、今日の対談、ぜひ世の男性にも読んでもらいたいですね。


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