さて、何かにつけせわしなかった師走のある夜。心ここにあらずだったんだと思う。あたしは家の中の階段を転げ落ち、頭をぶつけて血まみれになった。
血を見たら怖くなって隣人に電話したらすぐに来てくれて、「病院で見てもらったほうがいい、僕はもう飲んじゃったから」と救急車も呼んでくれて、(初めての)救急車にも乗った。いや、たいしたことはなかった。血が派手に出ただけで意識は明瞭、バイタルも正常だから、受け入れてくれる病院もなく、救急車は家の前から一歩も動かないまま、あたしは降りてすたすた家に戻った。
次の日外科に行ったがやっぱりたいしたことはなかった。頭の傷は縫う必要もなく、足の親指は生爪がはがれかけていたが、バンドエイドを貼るだけで済んだ。階段から落ちてこれだけとはすごいとお医者に言われた。ズンバのおかげだと思う。それでもふだん落ちない階段から落ちたというのは、やっぱり年末のせわしなさ、そして老いのせいだ。
次の日は東京で講演だった。ところがあたしは頭のてっぺんに大きなガーゼがあり、髪の毛は血糊でゴワゴワなのに、髪は洗っちゃだめですよと言われ、しかたがないから病院を出てすぐに帽子を、「Yo!」とか言ってる若い男の子がかぶるようなのを調達した。