(画=一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫3匹(メイ、テイラー、エリック)と暮らす日常を綴ります。今回は「ジャニスとジョニとひろみ」。20年以上維持したヘアスタイルを変えた伊藤さんは――(画=一ノ関圭)

ヘアスタイル変えました。

もう二〇年以上、あたしは、ロングヘアでパーマをかけて、乱れ髪の、蓬髪の、ざんばら髪の、ソバージュというか、むしろフランス語なんか使わずに、使い慣れた英語で、サベイジ(野蛮人!)と言い切ってしまいたいような髪形をしていた。白状すると、おてほんはちょっとだけジャニス・ジョプリン。

一九七一年のアルバム『パール』、最初の曲は「Move over」、「ジャニスの祈り」なんて邦題がついていた。そういう時代だった。あたしはB面の「ベンツが欲しい」が好きだった。しゃがれた声で、アカペラで、神さまに「メルセデス・ベンツ買って? カラーテレビ買って?」とねだる声。

ジャニス・ジョプリン、あたしがロックを聴き始める直前に死んだ。若くて死んだ。一方あたしがこの髪形にしたのは五〇になる前だから、ジャニスというよりは安達ヶ原の鬼婆的なイメージでずっと維持している。

ところが夏は、鬼婆だって暑くてたまらない。後ろでくくりたくなる。ズンバをやるときにもやっぱりくくる。少しでも涼しくなりたくてちょっとずつ切ってるうちに、昔は背中まであった髪がこの頃は肩までしかない。その上、くくるからすぐパーマが取れる。それで美容室に行ってまたかける。