希望の光が瀬川
孤独な人生を送ってきた検校が、希望を見いだせたのが瀬川でした。初めて検校が吉原で瀬川に会ったとき、本来なら初会の花魁はただ座っているだけのはずでした。でも、瀬川はそのルールを破って、目の見えない検校のために本を読んでくれた。ともに共犯者になれたような気持ちになったと思います。検校は、寄り添う覚悟をもってくれた瀬川に惹かれたのだと。検校は常に孤独で、人と通じ合えない部分が常にあった。その中で出会った瀬川に、計り知れない思いが沸いたのではないでしょうか。
瀬川を身請けして妻にしたものの、蔦重を思い続ける瀬川を自分のものにできず、検校の心は乱れていきます。
蔦重に嫉妬したのではなく、瀬川を自分のものにできない自分の境遇への憤りを自分に向けていたと解釈していました。自分の人生のもどかしさ、瀬川へ当たり前のようにしてやりたいこともできないくやしさ、自分への憎悪です。
瀬川に惚れた腫れたというだけではなく、もちろん女性としてずっと寄り添っていきたい相手ではあるのですが、瀬川の人間愛に惹かれた形だと感じています。
視覚障害の方にお話を聞いたら、目が見えない分、ほかのいろんなところが優れていくそうです。衣擦れの音や声のトーン、すべてで人の感情が読めてしまう検校だからこそ、日々逃げ場のない様々な感情が交錯するスパイラルにはまってしまった。生きていくことすら苦痛になっていくような人生だったかもしれません。そこに初めて見えた、かけがえのない一筋の光が瀬川だった。だからこそ、瀬川が自分を向いていない状況に苦しみを感じてしまったのではないでしょうか。