瀬川との距離感に迷い

いちばん迷ったのは、瀬川との距離です。「瀬川を信じられない」という心を持ちながら、それでも寄り添いたいという矛盾した思いがあった。自分の殻を壊そうとしながら瀬川に近づいていったと思うので、そのぎこちない距離感が出るように心がけました。

(『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』/(c)NHK)

幕府の手入れが入り、検校は捕まってしまいますが、自分の行いをすべて理解していて高利貸しをしていたと考えています。どこかうしろめたさがあったから、最後、瀬川を離縁することができた。

「どこまでいっても女郎と客」という検校のせりふがありましたが、どこまでいっても取り繕った2人だったかもしれない。でも瀬川と過ごした時間は、あの日、あの時、あの場所に戻りたいと思う、燃えるような時間であったのかもしれません。「お前が望むことはすべてかなえてやる、私の妻だからな」というせりふは、検校の本心、純粋な気持ちだったと思っています。

ただ、離縁が本当に検校の本心かわからないところが、検校の美しさでもある。振り回された瀬川もいた。そのすべてが美しいし、歯がゆさと切なさを感じる関係性が素敵でした。

(高利貸しの結果、多くの人を不幸にした)検校の行いを背負っていくのは検校だけでなく、瀬川もです。離縁して終わらせるのではなく、それまでの行いを常に背負い続ける道を選ばせる。それが人間としての成長につながる。森下さんの描いた人間愛というものが美しいと思いました。