俺の前で教育をしろ
相手は、名前をKと名のりました。傘を確認させていただくと、柄のところにヒビがあり、たしかに不良品でした。購入した傘売り場に行き、係長も挨拶をしました。売り場には同一品があるのですから、ヒビが入っていないものを代替品として選ぶのが普通ですが、男は15分もかけ選ぶふりをして、「よく見たが、気に入ったものがない」、想像通りの発言です。
「ご返金も可能ですが、それとも他の売り場、店内ショップにもございますのでご覧になりますか」と言うと、顔が明るくなり、「どこにある」と偉そうに言います。紳士服売り場に数か所あります、と告げ、先ほどのポロショップに案内しました。
ポロショップの担当の店員とは、男は今までにない笑顔で話しています。年下が頑張っているのを見にきた先輩のようです。そして「これでもいいのか」と、選んだ傘を示します。「はい、差額がありますのでお支払いいただければ」「分かった」と、会計を済ませました。
こちらは普通の客ではないことをすでに見抜いていますので、これで素直に帰るだろうか、と疑問に思いながら、車を止めたところまでお見送りをしました。するとそこで、「社員教育はどうやってるんだ」と言い出しました。「はい、通常教育係がつき指導しております」と答えると、「あの女の係長の指導をしてくれ」と言うので、「分かりました、再教育しておきます」と返事をすると、なんと、「俺の目の前でしてくれないか」と言うのです。
そんなことを言われたのは初めてで驚きましたが、見ないことには信じない、の一点張りで説得が出来ず、駐車場から引き返し、六畳ほどの保安の控え室でする羽目になりました。私の指導しているところを見て男は何も言いませんでしたが、納得したと言うより、そもそも単なる嫌がらせが目的だったのでしょう。
係長は悔しさから、売り場に戻る際に涙を流しました。理不尽な借りができ、私は、この男とは戦う価値があると思いました。高速代の支払いを申し出ると男は断りましたが、それはその後があることを示していました。