漫画家稼業30年となったマリさん。妊娠を機に食べていくために選んだ仕事でしたが、ここまで続けてこられた理由はというと――。(文・写真=ヤマザキマリ)
漫画家稼業30年目に思う
イタリアでの留学時代、駅で寝泊まりするしかないようなどん底の貧乏と、そんななかでの妊娠を機に、私は油絵で食べていくことを断念した。
11年同棲してきた詩人の彼氏とは別れ、食べていくために何ができるだろうと思案した果てに辿り着いた結論が、漫画だった。漫画も絵を描く仕事であることに変わりはない、という安直な思いつきだったが、実際やってみると半端ない根性を要する大変な作業であることが発覚した。
もともと妄想癖が旺盛だったので物語を考案するまでは問題ないのだが、枠で仕切られた紙に、頭で思い浮かべた物語を、映画の絵コンテのように、動きやカメラのアングルを考えながら描き込んでいかなければならない。