もやもやがぬぐいきれず
約3ヵ月かけて遺品整理をするなかで、私は母の本心を知ることになった。紙の切れ端やノートの一部に母の独り言が書かれていたのだ。それを目にした瞬間、心臓がドクンと音を立てた。
なぜならそこには、別居している私の父が、どんな酷い仕打ちを母にしたのかに始まり、「また娘(私)から連絡があった。悩みばかりで食欲がない」「孫の世話はもうしたくない」などといった私への恨みつらみが書かれていたからだ。
いつも前向きだった母。人の悪口を言うところを聞いたことはなかったのに……。知っていたはずの母の人格が、がらがらと音を立てて崩れていく。
もし母の生前に、一緒に片づけをしていてこの走り書きを見つけたなら、「いやだ、そんなことを思っていたのね」と軽く言えたかもしれない。しかし一人でこのメモを見つけた今、もやもやした気持ちがぬぐいきれずにいる。
とはいえ相談する相手を間違えたら、「親のことを悪く言ってはいけない」や「やさしくていいお母さんだったんでしょう」などといなされて終わりだと思うと、誰とも共有できなくてもどかしい。
いっそ捨ててしまおうかとも考えたが、箱に入れて取っておくことにした。「不満を残して死なないように」という教訓かもしれないと感じたからだ。
いよいよゴミ回収業者との約束の日。家具や不用品は5時間ほどできれいになくなり、部屋は空っぽになった。
団地管理の担当者に部屋を明け渡すと「きれいにしてくださってありがとう」と労いの言葉をいただいた。やっと母の遺品整理を終えることができた、と安堵する。
残るはレンタル倉庫にある山ほどの手芸品と着物。あれらをいつ、どのようにリメイクしようか。区切りがついた今は、少し前向きにそんなことを考え始めている。