母は60代で乳がんになり、10年以上病を抱えていました。晩年は余命宣告も受けていたので、「私が入る前にリフォームしましょう」と、自宅の模様替えをするような感覚で、お墓の土台の部分を玉砂利に敷き替えて。残された時間がわかっていたことを、「ありがたい」「人にはその人なりの寿命があって、それを無理やり引き延ばすことは自分の性に合わない」と、言っていたんです。

もっときめ細かな治療を受ければ延命できたのかもしれません。でも、「これ以上生きたいと願うのは欲深い」と、自然な流れで命を終えることをすんなり受け入れました。もちろん不安はあったでしょうが、「食べるのも日常、死ぬのも日常」と日頃から言っていたこともあり、自分が死に向かっていくことを、どこか面白がってもいたのかもしれません。

若い頃にはかなり激しい人生を送っていた人でしたが、病を得てからは過激な部分がどんどんそぎ落とされて、人として熟成していきました。そんな姿を母が見せてくれたので、私も老いていくのはちっとも怖くありません。むしろ、年齢を重ねていくというのはなんて素敵なことなんだろうと、この先の人生が楽しみです。

残された時間が決まったらあたふたせず、そのときに自分ができることを見つけていけばいいんだなって。人間としてあたりまえの老いや死というものを、あたりまえに受け入れていく姿勢を、晩年の母から教わりました。