やってこられたのは背中を押してくれた親父のおかげ

こうして忙しくさせていただいていますが、役者になると決めたのは、21歳ぐらいの時にアメリカのボストンで芝居の勉強をしてからです。親父(世界的指揮者の小澤征爾さん)がボストン交響楽団の常任指揮者だったので、アメリカは自分の生まれた場所であり馴染みのある場所でもあったのですが、3歳頃に日本に戻ってからは毎年夏に行くぐらい。まさか芝居について学ぶことになるとは思っていませんでした。

高校生ぐらいの時に父親から毎年、「若いうちに、アメリカに留学したほうがいいぞ。今しかないよ」と言われ続けていて。その頃は部活動もやっていて仲間がいましたし、学校が楽しかったので「抜けられないよ」と言っていたんですが、大学2年生が終わった時にふと「やっぱり行ったほうがいいのかな?」と、交換留学生としてボストンに行くことにしたんです。

親父に報告しようと、夜中の12時半頃に「ちょっと話いい?」と、寝ているところを起こして。何も夜中じゃなくてもと今は思いますが、その時は、今言わなければもう言えないような感じがあったんです。そこで、アメリカに留学することを話すと、親父がすごく喜んでくれて。その後ふたりでウイスキーを飲んだような気がします。だから、親父の言葉がなかったら、アメリカに行っていないんですよ。こうしてやってこられたのは、背中を押してくれた親父のおかげだから、今でも感謝しています。

昨年、妻と一緒にニューヨークとボストンに行ってきました。たまたまお互いの休みが合致したので、ニューヨークの演技の先生のところや、当時住んでいた家の跡に行ってみたり、ボストンの街並みを散策したり。自分の思い出のある場所や、いろいろなところに妻を連れていって。やっぱりボストンは、第二の故郷という感覚があるんです。自分が自分になった場所でもあるから。